イチゴ・マジック

 自分が低血圧だということに気付いたのは、大学に入ってからだったような気がします。
 記憶が定かであれば、大学の保健センターに自由に使える血圧計があって、風邪や膀胱炎などで体調を崩しがちだったころ、内科を受診するついでに血圧を測ったりしていました。上が88の下が45、というのが平常値で、正常値や高血圧の範囲と比較しては、これってやっぱり低すぎるんだろうなあ、と思ったものでした。
 そのせいかどうか、朝がとても苦手で、不機嫌になりがちです。
 寝ぼけていて包丁が上手に扱えなかったり、まな板が予想より重くて洗い場に落とし大きな音を立ててしまったり、ドアの建て付けがわるくて新聞を取るのに一苦労したり、ただそれだけのことなのに、朝だというだけで、何だかいらいらしてしまうのです。
 そういう状況を打破しようと、楽しく朝を始られたらと思い、キッチンに、大好きなイチゴを常備するようにしました。
 朝起きて寝ぼけまなこでパクッ。
 寒い空気の中新聞を取ってきてからパクッ。
 朝食の準備をしながらパクッ。
 一粒の真っ赤なイチゴ、その果汁が口の中に広がった瞬間から、“あぁ 幸せ〜”という気持ちがこころの中に広がって、朝の時間が楽しくなってきます。
 これを、ひとり秘かに「イチゴ・マジック」と呼んでいます。
 「イチゴ・マジック」は、朝に絶大な効果を誇るのですが、試してみると午後でも夜でも有効なようで、ちょっと元気がなくなってきたなあと感じた時には、口の中でじゅわっと広がるイチゴの美味しさを楽しんで、元気を取り戻しています。
 これで、もう少しイチゴの値段が低ければいうこと無しなのですが。